クラス・リポート02.01.26 |
1月26日 ミステリーの書き方 上級 この日は、会員渡辺由希「抱擁」の合評、講師による講評、それからシオドー・マシスン『名探偵群像』中の一篇〈名探偵アレクサンダー大王〉を教材としての講義があった。 1 渡辺由希「抱擁」の合評 この作品は主人公智恵、彼女をめぐる男性、要一と治彦、それぞれの視点の3つの視点から書かれている。智恵と要一は互いに惹かれ合い、恋に落ち、海辺のホテルでデートを重ねる。しかし要一の会社の社長の娘、清美が現れたことによって、二人の関係は微妙にひずんでいく。要一のあいまいな態度もあって、智恵は次第に疑心暗鬼になっていく。ある誤解から、智恵は要一を決定的に失ったと絶望するが、ちょうどそのとき、高校時代の恋人、治彦が彼女の前に現れる。一方、ひたすら智恵しか思っていなかった要一は、智恵に去られてしだいに狂っていく。智恵は治彦と、要一との思い出のホテルがある海辺を、久しぶりに散策する。そしてふと、智恵は一人ホテルへと足を向ける。ところが、ホテルのあの部屋では正気を失った要一が、今も…… 会員の批評・感想 * 登場する男性の人物像に疑問がある。その心理についていけないし、実在感もない。 * 内面描写が男の読者にとってはよく分からず、読みづらい。読者層が限られるのではないか。 * 筋立てがよく分からない。特に最後の場面が、何がどうなったのか分からない。 * 感覚表現にすぐれている。そのままユーミンの歌の歌詞になってもおかしくない表現がいくつもある。読みやすい。 * 話の設定に不自然がある。会社のやり手の男がこれほど脆い心の持ち主とは考えられないし、治彦の登場も都合良過ぎる。 * ほとんどが感覚表現なのにスピード感がある。筋立ての不自然も一種の飛躍ととれ、不快ではない。美少女マンガの世界を言語で作ったのでは?不思議な小説だ。 野崎六助氏・講評 * 全体的に見て、この作品は完成されている。書き直す必要はない。従来の会員とはかなり傾向が違っている。治彦の登場が突然過ぎはするが、彼、第三者の存在によって作品の収まりが良くなった。 * しかし問題点はいくつかある。 1つ、最後の場面、何がどうなったか分からない。散文が使えていない。作中でも、散文の部分は浮いている。 2つ、視点を複数にしたメリットがない。作者を定点として、複数の登場人物に視点を交代させるのは、お互いを客観化、距離化する作用があるのだが、この作品の場合すべての視点人物を同じ文体、同じ感覚で書いてしまっている。 3つ、つまり、作者と登場人物との間に距離がないことによって、文体そのものは完成されている。しかし作品世界を拡げるためには、この文体をいったん壊してみる必要がある。 参考図書 恩田 陸『黒と茶の幻想』 2 〈名探偵アレクサンダー大王〉シオドー・マシスン『名探偵群像』より 講義内容 よくできた毒殺ミステリーということで取り上げた。毒殺ミステリーの特徴があらわれている。登場人物はわずか五人、 アレキサンダー大王 ヨラス メデイウス ネアルクス スーサ 他には実際には登場してこない、アンテイパテルだけだ。 この五人の中で、 被害者 犯人 探偵 語り手(視点人物) という4つの役割が分担される。 まず謎が提起される。話の進行とともに容疑者が外れていく。真犯人が明らかになっていくときに、読者が思い込んでいた〈役割〉がひっくり返される。そこに意外性が出る。 この場合は、 被害者=探偵 犯人=語り手 だった。 役割の転換は鋭角的であるほど意外性があるし、優れた作品だといえる。 参考図書 ドロシー・セイヤーズ「疑惑」 アントニー・バークリー「偶然は裁く」 (文責 笠原) |
by eimu00
| 2004-11-12 08:52
| 01年度
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