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ミステリ創作(?)教室のクレージーでブルージーな日々の記録
by eimu00
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密室課題四 スタジオA

課題提出作品から
12月に出された課題の要諦は次の二点。
①密室殺人もの 天城一の用語による「内出血型トリック」を狙う――自殺にみせかける密室殺人状況をつくる。最近の作例でいえば、柄刀一の「緋色の紛糾」(『御手洗潔対シャーロック・ホームズ』所収)のタイプ。
②人物の職業を具体的に描き入れる。
なお、「20枚程度の作品を約三週間で仕上げる」という制約のため、次の付帯事項をつけた。
③先行作品からトリック借用を許す。その場合は、参考作を必ず明記すること。
この条件で集まった五作品をアップする。どういう作品をどういうふうに借用したのか――それを見破る愉しみもプラスされるのでは?

クラス・リポート05.01.08も参考のこと。


スタジオA
高遠はづき


 インディー・レーベルのプロデューサーの大津は、眠さをこらえながらスタジオAの鍵を借りるためにむさしの市民ホールの管理室へ赴いた。貸し出し用紙に使用時間十一時から十七時と書き込みながら一抹の不安を覚えていた。果たしてメンバーは時間通りに来るだろうか。普通ならばこんな早い時間にレコーディングを入れたりはしないが、この安い賃料のスタジオには大きな欠点がある。市民ホールの建物の地下一階に録音スタジオがあるのだが、一階のホールで演奏会が開かれるとその振動や音が伝わってきてしまい、録音ができなくなってしまうのだ。昨日もそのせいで十八時には切り上げなければならなかった。今日も十六時から一階ホールで行われるポップス・オーケストラのリハーサルが入っており、何がなんでもその前に録音を終了せねばならない。
 スタジオAの前までくると、ギターの敬吾が待っていた。少なくとも、時間にルーズではないミュージシャンがいるというのは心強い。
「やあ。敬吾がいてくれてホッとしたよ。問題は健史なんだがなあ」
 アコーディオンの健史は、自分のパートの録音に時間がかかる。それを見越して、昨日までの二日間に余裕をみてスケジュールを組んでおいたのに、遅刻はするわ、ミスタッチを連続するわ、でとうとう今日までなだれ込んでしまったのだ。他の二人のメンバーにとっては迷惑な話だ。だが、健史は時として素晴らしい演奏をし、各方面から注目を集め始めた若手であることは否定できない。態度はどうあれ、大津にとってはメジャーに引き抜かれたくない有望株だった。そこへベースの敦也がやってきた。
敬吾が鍵を受け取り、スタジオAの入り口の扉を開けた。入るとまず小部屋があり、そのまま真っ直ぐ進むとミキシングルーム、左に曲がると、録音ブースの分厚いドアがある。大津はミキシングルームで電源を入れ、準備を開始した。敦也は小部屋に昨日置いて返ったベースのチューニングを始め、敬吾は持ってきたケースからアコースティック・ギターを出している。
 マイクをセッティングし直せばすぐにギターの録音を再開できる。大津が、録音ブースに足を踏み入れると、いつものように音から遮断された不思議な感覚が耳に甦ったが、鼻がスタジオに似つかわしくないツーンとした臭いを感じ取った。。
 薄暗いスタジオを見渡すと、ミキシングルームとスタジオを隔てている窓の真下に男が背中をむけて倒れている。誰かはすぐわかった。昨日と同じものを身に着けていたからだ。彼こそアコーディオニスト、健史だった。
 
 九重刑事は、初対面の人なら角界を引退して二十年の力士だと思ってしまう風貌だ。
「さて皆さんの話をまとめてみましょうかね。昨日の録音は十八時過ぎまで行われて、大津さん、被害者そして他のふたりも一緒にこのスタジオをでた。そして、今朝、スタジオの被害者以外の三名が一緒にスタジオに入り、マイクのコードで絞殺された内田健史さんを発見。死亡推定時刻は、昨晩二十時から二十二時ぐらいの間と思われます。管理室の記録によると、鍵は昨晩十八時十五分に返却されて、今朝十時五十分に貸し出されている。しかも鍵は、今朝ホールの職員が出勤するまで金庫に入っていた。となると、鍵のかかったスタジオにどうやって被害者は入ったんでしょうねえ」
「謎などはありません。昨晩、四人で帰ったというのがそもそも嘘なのですよ。三人が共謀して被害者を殺して鍵をかけて帰った、で決まりですわ。被害者のせいで録音が遅れて苛立っていたというし。動機も充分」
 大津は乱暴な意見をいった刑事を睨んだ。こちらは、元マラソン選手のような骨ばった三十歳代の小柄な男で、村木と名乗っていた。
「大津さんたちは自分たちが犯人なら、スタジオで殺して被害者を残して鍵をかけたりしないと言いたいでしょうよ。三人が共謀しているのなら、自分たちに使用者が限定されているスタジオを殺害場所に選ばないだろうねえ」
 相撲レスラー刑事が大津の気持ちを代弁してくれているようだ。
「となると、閃めいた!このスタジオの合鍵を作った人間が犯人ですよ。関係者は二日間このスタジオを使っていたのだから、鍵をコピーすることはできたはずだ!」
 村木は自分の思いつきにかなり嬉しそうだったが、立ち会っていた市民ホールの係長が口を挟んだ。
「あの……それはかなり難しいかと。当ホールはかなり防犯にも気を使っておりまして、高価な機材などがあるスタジオの鍵はスイス製の錠を採用しております。もちろん予備の鍵を作ることは可能ですが、IDナンバーを製造元のチューリッヒに送らないと無理なんです。1ヶ月はかかりますし」
「けったいな鍵、いや優秀な防犯意識ですなあ」
 九重は真顔に戻り確認を続けた。
「昨日は四人でこのスタジオを出たということですが、大津さんは自分の車に柏崎敬吾さんを乗せてJR荻窪駅まで送った。大津さんはそのまま練馬の自宅に、柏崎さんは駅から高円寺のアパートに帰った。富山敦也さんは、ガールフレンドが迎えてにきて一緒にここを離れ、被害者内田さんは自分の原付バイクで帰っていった、で間違いないですね」
三人は黙って頷いた。
「さて、被害者の原付バイクですが、本人のアパートの駐輪場で発見しました。鍵のかかったスタジオにどうやって入ったのか、のほかに、どんな手段でここへ被害者が来たのかも問題になりますね。彼の自宅は善福寺だから、戻ってくるならバイクを使う率のほうが高かったはずです。一度バイクをおいて、電車と徒歩でここへ戻ってくることは不可能ではありませんけれどね」
九重の説明に村木がくいついた。
「誰かが車で迎えにいった!被害者の家とバイクの鍵はアコーディオンの横に落ちていましたからね。バイクは使っていない。でも大津さんは家族が一緒にいたというし、富山さんのアリバイも裏がとれているし……。柏崎さんは車を持っていない、う~む」
「スタジオで健史が見つかったから、僕たちのなかの誰かが犯人だって言うんですか」
 憮然とした敦也の言葉に大津も同感だった。
「それより、昨晩と今朝のことを簡単に再現しましょう」
と九重が言い出した。簡単すぎて再現するまでもないと大津はため息をついた。
「鍵をさわったのは、話によると、被害者と大津さんと柏崎さんですね。被害者を私が、村木が大津さんを、もう一度私が柏崎さんをやりますから見ていてください」
 全員でまずスタジオの内側から廊下へでる場面だ。敦也本人は本人役で缶コーヒーを買いにその場を離れ、大津役の村木と敬吾本人は、タバコを吸いに二十歩ぐらいのところにある灰皿に近づいた。健史役の九重がそっと鍵を差し込みまわしたのを大津は見つけた。
「違いますよ、刑事さん!」
九重は大津の言葉を制して、灰皿付近に近寄り大津役の村木に鍵を渡す。村木はタバコを手に戻ってきて何の躊躇もなく鍵を差し込み、まわした。そして、今朝の再現ですというと、柏崎敬吾役の九重が鍵を左右に二度まわす。
「そんなことはしていない!」
敬吾が叫んだが、相撲レスラー刑事は冷静だ。
「あなただけが鍵のかかっていなかったスタジオAを、開錠したように振舞うことができたはずなんですがねえ」
敬吾は呆れたように首をふる。
「ところで、柏崎敬吾さん、あなたは昨晩被害者と電話で話していますね。記録が残っていますよ。なぜさきほどは隠されたのかな」
「忘れていただけだ。録音が遅れていることについて話しただけだし」
「たまたまかもしれませんが、被害者が携帯電話のメモ録音を押していたんですよ。会話全部じゃありませんが、内田さんが、『今からスタジオに行って例のものを渡すから』と。何を渡される予定だったのでしょうか」
 敬吾が動揺しているのをみて、大津は悪い予感に打ちのめされた。
「人目につかない場所ということで被害者は、スタジオを使うつもりで用意していた。だから一度そっと施錠して、その鍵を大津さんに渡して鍵を開けさせたままにしたのです。もしうまくいかなければ、忘れ物をした、とでも言って戻ればすむことです。ところで例のものとはドラッグ類でしょう?実は、アパートにあった原付バイクのヘルメットに少量が隠されていました」
 後に大津は全容を知った。健史は、敬吾がバイクで人身接触事故を起こしながら逃亡していたことを知り、強請るかわりにドラッグの運び屋の話を持ちかけてきた。一度目は言うとおりにした敬吾は、リスクの大きさに怖気づき辞めさせてくれと頼んだという。しかし聞き入れてもらえず、敬吾はとうとう絞殺に至ったというのだ。原付バイクは、敬吾が健史のアパートまで乗って帰ったが、鍵は翌日にアコーディオンの隣に落としておいたということだった。
by eimu00 | 2005-01-22 09:07 | 創作演習
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