クラス・リポート01.12.08 |
12月8日(土) 今回の授業内容 (1)「荒れ地」受講生、呉野野春子さんの作品の合評 (2)「多摩湖畔殺人事件」内田康夫著作(光文社、カッパノベルス)より、多数の読者を得る作品を書くコツを学ぶ。 レポート係:鈴木奈保 ----------------------------------------------------------- 「荒れ地」作:呉屋野春子(受講生) あらすじ:山の中で狸に育てられた主人公田助は、ハルという村の娘と結婚するために山奥の沢地を開墾することを考える。仕事は当初、全く遅々として進まなかった。しかし田助は目に見えない「あの者」の力を借りることで、少しずつ自分の田んぼを作り上げていく。田助荒れ地にかかりきりになっている間、村では子供が消えていくという不思議な事件が起こっていた。村人はそれを田助のしわざと考えるが、田助は「あの者」のしでかしたことではないか?と思う。しかしそれは、木こりの藤吉の犯行だった 合評:やはり「あの者」という存在にこだわった意見が多かった。結局作品中には「あの者」が何なのか、はっきりと書かれてはいないが、比較的素直にこの存在を受け入れたという意見が多かった。作者の解説によると、この小説は「ホラー」だということだったが、「ホラー小説」と思った受講生は割合少なかった。またこの作品中の方言、あるいは難解な単語についのコメントが多く出されたが、この点は特に否定的な意見はなく、むしろ作者の独自の世界観に対して、皆好意的だったように思う。 講師の講評:まず第一に重要なのは、「この作品のテーマは何なのか?」ということ。 作者は「ホラー」と「ビルデゥングスロマン」を合わせたような小説を書いたとの話だったが、この二つは相容れない。つまり「あの者」を使って自分にひどい仕打ちをした村(共同体)へ復讐するのであれば、この小説の位置を「ホラー」に確定すべきだ。あと細かいところでは、藤吉という犯人の存在をもっと最初の方で活躍させるべきだ。それから「子供が消える」という事件の話をいつ、どのように提示するか再考する必要があるだろう。 参考作品:『夜啼きの森』岩井志麻子著作、角川文庫 ------------------------------------------------------------- 『多摩湖畔殺人事件』作:内田康夫(光文社、カッパノベルス) テーマ:多数の読者を得る推理小説とは、どのような味付けがあるのか? あらすじ;車椅子の少女、橋本千晶は、自分の父親が多摩湖畔で他殺体として発見されたことを知る。しかし彼は商用で兵庫県に出掛けたはずだった。彼女は遺体から発見されたメモを頼りに犯人探しをはじめる。一方”鬼”と呼ばれる刑事、河内は、千晶の懸命な姿に心を打たれ、病身にもかかわらず自ら千晶の推理をサポートする。二人はやがて「ハリのないハチ」という不思議な言葉に辿り着く。 講師はます7つのポイントを挙げた。 (1)キャラクターの作り方 (2)章の区切り (3)旅情の味付け (4)キーワード (5)視点 (6)プロット (7)アリバイトリック (1)キャラクターの作り方 主人公鬼刑事と車椅子の少女。読者層の間口を広げるためには、探偵役はなるべく 親しみやすいキャラクターの方が良い。河内が千晶に死んだ娘の面影を見ている という設定は、作中の割合早い段階で出てくる。これによって読者は、病身にも かかわらず千晶のために捜査を続ける河内の姿に共感していく。事件そのものの 経過以外にこういったキャラクターにまつわる二次的なエピソードを加えることに よって、仮に犯人がすぐに分かる推理小説でも読者は最後まで読んでしまう。 (2)章の区切り 各章ごとに、冒頭はどんな始まりなのか?また章末にはどのような表現が使われて いるのか?この点を機械的に読んで見る。 プロローグ「あなたもあの空襲をご覧になっていたのですか?」 第一章「丸一日降り続いた雨は・・・」 第二章「梅雨がいつまでも尾を引き・・・」 第三章「七月十二日の夜、橋本圭一は・・・」 第四章「久しぶりに書斎に入ってみて・・・」 第五章「秋田のKホテルで・・・」 エピローグ「窓の向こうの銀杏がすっかり色づいている」 ※授業の中ではここまできちんと書くことはしなかったのだが、レポートの中ではあえて冒頭部分のみ全部抜き出してみた。講師の言うとおり、やはり季節感のある話題からはじまるのが多いように思う。またこの表現で時間経過も分かるので、読者には尚一層読みやすいのではないのだろうか。事件がだんだん明らかになっていく状況に合わせて、気候も良くなっていくように思えるのは、私(レポーター)の考えすぎなのだろうが。 (3)旅情の味付け この小説はいろいろな地名がたくさん出てくる。旅をしながら列車の中で読むには うってつけではないだろうか。 (4)キーワード この小説中のキーワードは「ハリのないハチ」と「空襲」の二つ。「空襲」という言葉 から河内は、「松代大本営」を想像するが、そのすぐ後に犯人らしき男が登場する。 容疑者らしき男は他に誰も出て来ないので、読者はすぐに誰が犯人なのか分かって しまう。この二つのキーワードの意味が分かれば、事件解決の糸口はすぐに見つかる。 読者に何も考えさせないのが、実は人気のミステリーの秘密なのでは。 (5)視点 二人のキャラクターが交代で視点を受け持っている。しかし時々違う人間の視点が 登場するのは良くない。(人気作家の内田康夫だから許される。)また視点が作者 の無意識で河内から千晶に代わったりするのも良くない。 end |
by eimu00
| 2004-11-08 09:49
| 01年度
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